阿波風原稿

生まれた家は懐かしいものである。
見慣れている、なじんでいる。
刷り込みということがあるのかもしれない。
今はすっかり見なくなったが、昔は木造草葺屋根が多かった。
あれは風情があってよかった。
ただ、梅雨時はじめじめして改良の余地の多い建物ではあった。
後に様々な家に暮らしてみた。
家に対する我の要望が多様に膨らんできた。
1 家の性能についての要望
(1) 湿度の調整について:乾き過ぎずじめじめしないこと。
(2) 温度の調整について:寒からず暑からず。
(3) 光の調整について:暗すぎず明るすぎず。
(4) 眺めのよさについて:隣家と程よい距離、障害物がないこと。
(5) 騒音のないこと:低周波の暗騒音にも気をつけよう。
(6) その他いろいろ:ゆれが少ない、匂いがないなど。
2 構造について
(1) 広さ:とんぼ返りをしても壁や家具にぶつからない。
(2) 高さ:飛び上がっても天井につかえない。
(3) 強さ:地震には絶対の自信がある。
(4) その他:導線、バリアフリーなど。
3 その他
(1) 街との関係:街には近いほうがよいけれども人車の喧しきがない。
(2) 広い道路との関係:車社会ですから。
(3) その他:まだまだいっぱいありますが今は思い出せない。
要望を思いつくままに並べたててみた。がこれをみたすものが存在するのだろうか。
ひとつあげるとすれば一般国道から少し外れたところにある古い民家。
初夏、まだ梅雨入りしていない頃に、この家の戸を開け放ち、畳の上に仰向けに寝転ぶのは最高の贅沢である。
古い民家は、やわらかい丸みを帯びた線によって彩られた郷である。
一方、これの対極にあるのが強い直線で形どられた近代的な建物である。
これも捨てがたい住み心地を提供してくれる。
力とエネルギーで住みやすさを確保してくれているのである。
モネの家という商標登録した家がある。
直線で構成した個性的なデザインを持ち、力の象徴である鉄をふんだんに使い、強さを鉄で確保し住み心地を木で演出を試みた家である。
重量鉄骨高床式住宅で超耐震と津波防災を標榜している。
床下高さが2.1メートルあって大概の洪水や津波の浸水は逃れることができる。勿論逃れられない浸水もある。かなり広い範囲では十分役に立つものです。
高床式を支えている柱は、直径が23センチ厚さ1.5センチの鋼管で作られており、浸水に対しては時速36kmで襲い掛かる水流の圧力に対してその3倍の強さを持っており、自地震に対しては阪神大震災の818ガルを越える1000ガルに耐えられる強さを持っている。
床面積は136.94平方メートル(約41.5坪)でそのうち38.54平方メートル(約12.8坪)がベランダ部分で残りが居住スペースとなっている。
室内は、98.4平方メートル(約29.8坪)で中間に柱や壁がないので広々としており、ワンルームの大広間としても使用できる。
床は、無垢材のフローリングで、床材の中に床暖房用の温水パイプを組み込んである。
窓は、普通の住宅にはない幅3.4メートル高さ2.9メートルの大面積の窓ガラスを使用しており、日当たりと眺望は申し分なしである。
いすやテーブルにはジョージ・ナカシマ作のものが、照明にはポール・ヘニングセン作のものがよく似合うと思っている。
これを海が見える小高い丘の上に立て晴れた日に室内やベランダから海を眺める生活はどんなものとなるだろうか。
設計者は自分が住むためのいい住まいを夢見てこのような家を設計してみた。
現代版の郷に成り得るかどうか。
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